摩耗
定期メンテナンスや故障の際に、歯車を交換する理由として最も多いものは、歯車のほぞ(歯車の中心軸、幹の部分)の摩耗によるものです。
状態によって摩耗の程度の差はありますが、油切れ状態で長期間使用が続くと、歯車のほぞと、ほぞが入る穴(ほぞ穴)の接触部分の摩擦が大きくなり、歯車のほぞが削れてしまいます。
また、部品が削れた際に発生する金属粉がムーブメント全体に広がり、多くの部品に損傷を与えることがあります。
Cal.ETA2892/3番車
歯車のほぞが少し摩耗している状態です。この程度の摩耗であれば時計は動作するため、通常使用では気づくことはできません。ほぞを磨いて修正することで部品の再利用が可能です。
Cal.ETA2892/3番車
ほぞが大きく摩耗している状態です。この段階になると、歯車の回転にがたつきが起こり、時計の精度不良や、頻繁に止まる原因となります。部品の交換が必要な状態です。
変形、破損
落下や着用中にぶつけてしまうなど、外部からの衝撃により、歯車のほぞが折れる、曲がるなどの不具合が起こることがあります。
ほぞが折れた場合、時計は不動になるため、すぐに不具合に気が付くことができます。
しかし、ほぞの曲りが起こった場合は、時計はそのまま動作することもあります。また、部品の交換を必要とせず、修正によって改善するできる場合もあります。
ただし、針が取り付けられる4番車や、クロノグラフ車などは、歯車が固定される部分から、針が取り付けられる先端までのほぞが長いため、衝撃などにより曲がりやすく、曲がってしまうと、針が傾いてしまうことがあります。
針が傾いた状態で回転をすると、文字盤に針が擦れて、文字盤を傷つけてしまう恐れがあります。
Cal.ETA7750/クロノグラフ車
Cal.ETA7750/クロノグラフ車
クロノグラフ車のほぞが折れています。歯車をほぞ(軸)で支えて固定することができないため、不動になります。
Cal.ETA7750/クロノグラフ車
ほぞの先端が曲がっています。この状態で先端に針を取り付けると、他の針や文字盤に擦れてしまい、傷がつく原因になります。
歯車のかけ
Cal.ETA6497/香箱
特殊なケースとして、ゼンマイ切れの際に、切れたゼンマイの力が一気に解放され、ゼンマイを収める部品(香箱)の歯が曲がる、かけるなどの不具合が起こることがあります。
また、ゼンマイの動力を伝達する輪列(2番車、3番車)にまで衝撃が伝わると、歯車が破損してしまうこともあります。
メンテナンスは部品の摩耗が進んでしまう前に!
歯車一つをとっても、様々な不具合が起こります。
定期的なメンテナンスをしていただくと、常にムーブメントの状態が良好になり、お時計を永くご愛用いただくことができます!