部品の摩耗による不具合
日々修理を行わせていただいていると、「油切れ」、「摩耗」などの言葉を非常によく使用しています。摩耗といっても、時計の部品は非常に小さいため、専用のルーペを使用しないと判別できないレベルのものがほとんどになります。
今回は部品の摩耗と、摩耗に伴う不具合をフランクミュラーやブルガリなど多くのメーカーで採用しているETA2892の一番受けを例にご紹介していきます。
一番受けの仕組み
一番受けはゼンマイが収められている香箱を上から押さえているプレート状の部品で香箱受けとも呼ばれます。ゼンマイを巻き上げる際に稼働する複数の歯車が取り付けられる土台にもなっています。※ムーブメントの種類によって構造は異なります。
ETA2892では、ゼンマイを巻き上げる際に、遊動車と呼ばれる丸穴中間車が左右にスライドし、自動巻きと、手巻きの切り替えを行っています。
丸穴中間車(赤矢印部分)がある程度稼働できる作りになっています。このスペースが無いと、多くの歯車が連動してしまい、自動巻き上げができない、部品の負担が非常に大きくなるなどの不具合が生じます。
一番受けの不良(摩耗)
新品の一番受け(前)、摩耗した一番受け(後)
丸穴中間車が入る軸は、油が切れると歯車が動くことで削れることがあります。後者の軸は大きく削れているため、歯車の可動範囲がより大きくなり、他の歯車にも悪影響を与えてしまいます。
写真の状態まで削れてしまうと、修正ができないため一番受けごと交換が必要になります。一番受けは比較的高額な部品となるため、交換すると必然的にトータルの修理料金も高くなってしまいます。
手巻きに違和感を感じたら……
一番受けが摩耗した状態で感じる不具合(違和感)は、
・手巻きをした際にごりごりとした感触がする
・手巻きが非常に重い
などがあります。また、時計の機能としても自動巻き上げ不良や、パワーリザーブ不足などの症状も生じます。
実際の使用状況にもよりますが、
・長期間オーバーホールをしていない
・手巻きを頻繁に行っている
などの場合は注意が必要です。思い当たる点がありましたら是非一度無料見積もりを受けていただくことをお勧めいたします。